事例紹介/事例23 病理診断の結果: ステージ0の膵臓がん
当事例の概要
2020年より膵嚢胞が指摘され、腹部エコー検査で経過観察を行っていた方です。精査目的で施行された当院MRI検査(2021/11)では、膵尾部に限局性萎縮を認め、局所膵実質が線維化を示し(T1WIで低信号)、拡散制限が目立ち、漸増性増強効果を呈していました。局所主膵管が軽度狭小化し、上流側に小嚢胞や分枝拡張を認め、萎縮部の早期膵がん疑いを指摘。2022/01に施行した造影CT検査でも、前回MRI検査と同様、膵尾部に限局性萎縮、同部位に一致して遷延性濃染を認め、超音波内視鏡検査、膵液細胞診を推奨。2022/01に施行された超音波内視鏡検査では悪性所見を認めず、経過観察方針となりましたが、2022/12に施行された MRI検査でも、前回と同部位(膵尾部端より約2cmの部位)に限局性高度萎縮を認めています。2023/9に施行された超音波内視鏡検査では7mm大の低エコー領域が出現、超音波内視鏡下穿刺吸引法 (EUS-FNA)にてadenocarcinomaと診断、手術施行に至りました症例です。
術後病理結果
pTis pN0 M0
Intraductal papillary mucinous carcinoma,non-invasive,of the pancreatic tail,DP.
-No lymph node metastases(0/15)
膵尾部癌として、膵体尾部切除術施行、膵管拡張と乳頭状増殖を有意にとりIPMCと診断
撮影内容
3.0テスラMRI 膵臓 (造影無)
所見
【上腹部MRI検査(非造影)】
<前回MRI2021/11/16および前回CT検査2022/01/18と比較しました。>
・ 膵体尾部移行部に主膵管と連続する膵嚢胞(17x6mm;前回16x6mm)を認め、分枝型IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍 )と考えます(図1,2,5)。嚢胞に悪性所見は認められません。
・ 主膵管拡張は認めませんが、膵尾部端で主膵管は軽度屈曲蛇行と多数の分枝拡張(図1,2)、膵尾部実質は萎縮を認め、尾部端より2cmの部位で膵実質は著しい限局性の萎縮変形を示します(図3-6)。同部は前回の造影CT検査で軽度の後期濃染が認められた部位に相当しますが、拡散強調像(b1000/b1500)では明瞭な高信号は認められません。膵尾部変化は慢性膵炎変化と考えられますが、限局性の高度萎縮はときに早期膵癌の初期変化のことがあります。腫瘤性病変の出現は認められませんが、厳重な経過観察が必要な所見と考えます。ENPD下の膵液細胞診併用で経過観察下さい。
・ 膵頭部で主膵管はやや細い副膵管の描出を認めます。
・ 胆嚢体部壁に嚢胞を認め、胆嚢腺筋腫症を考えます。
・ 肝内に小嚢胞を散見します。
・ 両腎に微小嚢胞を数個認めます。
・ 副腎・脾に明らかな異常を認めません。
・ 傍大動脈リンパ節腫大を認めません。
診断
・膵尾部限局性高度萎縮(図3-6)+膵尾部分枝拡張(図1,2)
:慢性膵炎に伴う良性狭窄の場合もありますが、
早期膵癌の初期変化(0期相当)のこともあります。
EUSでは腫瘤は認められないと思われ、ENPD下膵液細胞診併用で経過観察が望まれます。
・膵嚢胞(図1,2,5):分枝型IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)疑い 著変を認めません。
・胆嚢腺筋腫症
・肝・腎嚢胞